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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
「三千子さんだけを折檻なすったのは、どういう訳でしょうか」
「それは公然の娘ですもの、主人はそんなことまで、几帳面に考える様なたちですの。それに、主人の愛が、どっちかといえば、不幸な小松の方へ傾いていたことも考えて見なければなりません。おてんば娘は主人の気風に合わないのですわ」
「奥さん、一寸黙ってごらんなさい」突然紋三が夫人を制した。「うしろからだれかついてくる奴があります」
話をやめて、耳をすますと、確に人の気勢がした。それが尾行者に相違ないことは、こちらが足を止めると、向うもピッタリと立止まってしまうのだ。暗をすかして見ると、すぐ側の木立の蔭に何者かが忍んでいた。
「誰です。私達に御用でもおありなんですか」
紋三が虚勢を張って大きな声を出した。
「小林さん、私ですよ」
すると、その男はノコノコ物蔭から出て、心安い調子でいうのだ。
「とうとう見つかっちゃった。O町から尾けていたんだけれども、あなた方すっかり興奮して了って、ちょっとも気がつきませんでしたね。私ですか、明智さんの御手伝いをしている平田ってものです。一二度菊水館でお見かけしたんだけれど、御存じありますまいね」