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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

三段抜き、二段抜きの大見出しは、ほとんど血生臭い犯罪記事ばかりなのだが、そうして活字になったものを見ると、何かよその国の出来事の様で、一向迫って来なかった。だが、今別の面をはぐろうとした時、ふとある記事が彼の注意をひいた。それを見ると彼は何かしらギクリとしないではいられなかった。そこには「溝の中から、女の片足、奇怪な殺人事件か」という三行の見出しで、次の様な記事が記されていた。

昨六日午後府下千住町中組――番地往来の溝川をさらっているうち人夫木田三次郎がすくい上げた泥の中から、おもりの小石と共にしまの木綿風呂敷に包んだ生々しき人間の片足が現れ大騒ぎとなった。戸山医学博士の鑑定によれば切断後三日位の二十歳前後の健康体の婦人の右足を膝関節の部分から切断したもので切口の乱暴なところを見れば外科医等の切断したものでないことが判明したが附近には右に該当する殺人事件又は婦人の失踪届出なく今のところ何者の死体なるや不明であるが、――署では極めて巧妙に行われた殺人事件ではないかと目下厳重調査中である。

新聞では左程重大に扱っている訳でもなく、文句も極簡単なものであったが、紋三の眼にはその記事がメラメラと燃えている様に感じられた。