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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
でも、まさかねえ」
夫人は一寸笑って見せた。
「ところが、僕はあれでひどい目に逢っちまったんですよ。実は僕昨夜浅草公園へ行ったのです」紋三は極り悪そうにいった。「暗い公園の中で化物みたいな奴に出くわしましてね。それからすっかり頭が変になっちまったのです」
夫人が好奇心を起した様に見えたので、それから紋三は昨夜の一条をかい摘んで話した。
「マア、気味の悪い」夫人は眉をしかめて「でもそれは、あなたの神経のせいかも知れませんわ。養源寺さんは嘘をいう様な方ではないのだし、それに近所の人だって、そんな不具者がいれば気のつかないはずはありませんものね」
「僕もそう思うのです。そうだとすると一層いけないのですけれど……」
彼等はそうして三十分以上も上野の山内を歩きまわった。紋三は三千子の家出の顛末を聞き訊し、山野夫人の方では明智小五郎の為人を尋ねたりした。そして結局明智の宿を訪ねることに話が極った。
二人は精養軒で食事を済せると自動車を呼ばせて、明智の泊っている赤坂の菊水旅館に向った。紋三は妙にうれしい様な気持だった。美しい山野夫人とさし向いで食事を摂ったことも、彼女と膝を並べて車に揺られていることも、そして、その行先が有名な素人探偵の宿であることも、すべてが彼の子供らしい心を楽しませた。