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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

「家出をなすったとすれば、お嬢さんの履物が一足なくなっているはずですね」

明智が説明した。

「アア、それなれば、粗末な不断にはきますのが見えないのでございます。それと、ショールと小さい網の手提がなくなっております」

「着物はどんなのを……」

「常着のままでございます。黒っぽい銘仙なのです」

「するとつまり」明智は皮肉にいった。「一方では厳重な戸締りがあって一歩も外へ出られないはずだし、一方ではショールだとか履物だとか、家出をなすった証拠がそろっているという訳ですね」

「左様でございますの」夫人は当惑して答えた。

「じゃ、一つこの洋館の中を見せて頂きましょうか」

明智はいいながら、もう起上っていた。

階下は客間とその隣の主人の書斎との二室きりだった。明智は書斎を一渡り眺めてから、外の廊下の端の階段を上って行った。小林と山野夫人がその後に従った。二階は三室に分れていて、その全体を一人娘の三千子が占領していた。部屋の様子で三千子が余り几帳面なたちでないことが察せられた。化粧室には姿見の前に様々な化粧道具が乱雑に並んでいた。書斎では書だなや机の上が不秩序に取散らされていた。