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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
広い空洞の奥に、縦横に交錯したスプリングが見えているばかりだった。
それを確めると、紋三はホッとして楽な姿勢に返った。そして、今の馬鹿げた空想をおかしく思った。彼は夫人と目を見合せて、一寸微笑み合った。夫人も同じ心に相違なかった。
併し、それにも拘らず、明智だけは一層厳粛な表情になってピアノの内部を一心に検べていたが、やがて立上ると、二人の方に振向いて、声を落していった。
「奥さん、これは普通の家出なんかじゃありませんよ。もっと恐しい事件ですよ。びっくりなすってはいけません。このヘヤーピンはお嬢さんのでしょうね」
明智は細い金属のヘヤーピンを示した。
「ハア、それは三千さんのかも知れません」
「これが、ピアノの中のスプリングに引かかっていたのです。それであんな音がしたのでしょう。それから、お嬢さんの髪は細くって、いくらか赤い方ではありませんか」
彼はピンの外に一本の毛髪を指にからませていた。
「マア、では……」
山野夫人は驚いて叫んだ。
「まさかお嬢さんが隠れん坊をなすった訳ではないでしょう。一人でこの中へ入ってふたをしめることは不可能です。すると、何者かがお嬢さんをここへ隠したと考える外はありません」