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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
七時が打って暫くすると、何を思ったのか百合枝は着換えをして、大五郎氏の部屋へ入って行った。大五郎氏は蒲団の上に仰臥して、青い顔をして、ぼんやりと天井を眺めていた。草色の絹をかぶせた電燈が、部屋を一層陰気に見せていた。
夫人は主人に薬を勧めたり、部屋を乾燥させない為に枕頭の火鉢にふたをとったままかけてある、銀瓶に水を差したりしてから、大五郎氏の顔色を読む様にして、
「私一寸片町までまいりたいのでございますが」
とおずおずいった。
「相談にでも行くのか」
大五郎氏は、髭の伸びた顔を夫人の方にねじ向けて尋ねた。二三日の間にめっきりやせが見えて、目ばかり大きく血走っていた。
「ハア、度々ですけれど、お加減がそんなにお悪くない様でしたらほんの一時間かそこいらお暇が頂きたいのですが」
本郷の西片町には、山野夫人の伯父に当る人が住んでいた。両親をなくした彼女には、この人が唯一の身内だった。
「私は差支ないから、行くなら、気をつけて行って来るがいい」
大五郎氏は何か別の考え事をしている様な、空な声でいった。
「では一寸行って参りますから」
山野夫人はそういって立上ろうとして、ふとそこに拡げてある夕刊に気がついた。