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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

百合枝は薄い着物を通して、ジトジト汗ばんだ柔かい掌を、直接肌に触れられでもした様に、不気味に感じた。だが、それは甚だしく不気味であったにも拘らず、同時に怪しくも彼女の道念を麻痺させる力を持っているかと見えた。

彼女はいつの間にか抵抗力を失っていた。それ故、男のほてった顔が彼女の頬に触れ、熱い涙が彼女の脣をぬらし、焔の様な吐息が、彼女の呼吸と混り合っても、彼女はそれを払いのけ様ともしなかった。

だが、暫くすると、突然彼女は恐怖の叫び声を立てて、男の腕から身を逃れ様とあせった。そうしている間に、彼女は相手の身体に起ったある恐しい変化に気づいたのだった。

さい前から彼女の手が無意識に男の身体を探っていた。そして、ふと足の方に触れた時、今まで彼が坐っているとばかり思っていたのが、その実畸形的に短い足を一杯に伸して、立っていることを発見した。彼の顔は彼女の顔と同じ高さにあった。それでいて彼女は坐っているのに、相手は明かに起上っているのだった。つまり、男はいつの間にか、異常に脊の低い畸形児に変ってしまったのだった。彼女は一瞬間にすべての事情を悟った。男はかずらや眼鏡や外套によって、こよい変装していたと同じ様に、平常の彼自身が一つの変装姿に過ぎなかったのだ。