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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

聞いた様に思った。

彼は半狂乱の体で、門を入ると手荒く格子戸を開けた。

「ご免なさい」

家の中はシーンとしずまり返っていた。

「だれもいないのですか」

彼は二度も三度も大声に怒鳴ったが、何の返事もなかった。彼は思い切って玄関の障子を開けた。それでもまだだれも出て来ないので次の間との境の襖を開いて中をのぞいて見た。そこには人の影もなかった。

紋三は、万一とがめられた所で、何とでもいい逃れの道はつくと高を括った。彼は臆病者の癖に、どうかすると非常に向う見ずな大胆な所があった。

彼はいきなり靴を脱いで玄関に上ったが、流石にあわてていたので、そこの土間に山野夫人の履物が見えないことを気づかなかった。ふすまを一杯に開くと、次の茶の間らしい部屋へ踏込んで、奥の間との境のふすまを開けて見た。そこに一人の汚ならしい老婆が、ハッと居眠りからさめた様なとぼけた顔をして坐っていた。

「アラマア、ちっとも存じませんで、どなた様でございます」

老婆はなじり顔に、大声でいった。

「どうも失礼、いくら呼んでも返事がないものだから、こちらに山野の奥さんが見えているでしょう。実は急な用事が出来てお迎いに来たのですよ」