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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

紋三は押入なども一々開けて見て、隈なく家中を探したけれど、老婆のいった通りねこの子一匹いなかった。あの様に表口裏口を監視していたのだから、夫人達が若し家を出たとすれば彼の目につかぬはずはないのだし、彼が表から入った物音を聞きつけて、その隙に彼等が裏口から逃げるという様なことは、不可能だった。そんな余裕のあろう訳がない。つまり、彼等はこの家の中で消えうせてしまったとしか考えられなかった。

紋三は又しても狐につままれた気持だった。考えて見ると今度の事件には、妙に幾度も同じ様なことが起った。三千子も部屋の中で消失した。例の気味の悪い一寸法師は、養源寺の庫裏へはいったまま消えてなくなった。そして今夜は山野夫人の番だ。紋三はうんざりした。

彼は老婆に叱られながら、すごすごと家を出た。

「このごろ己の頭はどうかしているのか。それとも、悪人が神変不思議の妖術でも心得ているのか。一体どっちが本当なんだ」

まるで悪夢にうなされている様な感じだった。彼は電車道を探して暗い町を歩きながら、ふと子供の時分に聞いた、狐や狸が人を化かす話を思い出していた。あの荒唐無稽な恐怖が、彼の背筋を冷くした。