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いちねんのけい

一年の計

佐々木 邦

「面白倶楽部」1926(大正15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,627 字 · 14 页

青空文庫

片岡君は又禁酒を思い立った。

思い立つ日が吉日というが、片岡君は然う右から左へ埓を明けたがらない。思い立ってから吉日を探し当てるまでに可なり手間がかゝる。

「今から禁酒しても来月は小杉君が洋行するから送別会がある。俺は一番懇意だから何うしたって発起人は免れない」

なぞと言って、兎角大切を取る。

「あなたのような方は身投げの決心をしても大丈夫でございますわね」

と細君が冷かす。

「何故?」

「何故って、こんな深いところじゃ迚も助かるまいって先ずお考えになりますわ」

「然うかも知れない。未練があるのさ。子供がないんだから、酒でも飲まなくちゃね」

「ですから是非おやめなさいとは申上げませんよ。適度に召上ったら宜しいじゃございませんか?」

「その適度がむずかしいから一思いにやめようと言うのさ」

「それならおやめなさいませ」

「やめるよ。小杉君の送別会を切っかけに断然やめる」

と力んだのは数月前のことだったが、その小杉君がアメリカへ着かない中にもう撚りが戻って、又やめる必要を認めたのである。片岡君は年に三四回思い立つ。そうして吉日を定めるのに暇が要る代り、後は極めて手っ取り早い。