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いっぽんのはな

一本の花

宮本 百合子

「改造」1927(昭和2)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,709 字 · 55 页

青空文庫

と云い出した。

「それなら、やったことがある。対手の境界線の上まで行っていいんだ」

「これは違うのさ、一本手前までしか行っちゃいけないの」

「一番奥のが出切るまで陣へ入っちゃいけないって云うんだろう? だから、きっと行けるんだ」

「頑固だなあ」

幸子が、じれったそうに、力を入れて宣告した。

「これは違うんだってば」

勝負の間、彼等は、朝子が二人に何をしても平気の癖に、大平が幸子の駒を飛びすぎたり、幸子が彼の計画を打ち壊したりすると、

「こいつめ」

「生意気なことをするな、さ、どうだ」

「ほら、朝っぺ! うまいぞうまいぞ」

などというそれ等の言葉は、本気とも冗談ともとれた。

「なんて負けず嫌いなの。二人とも?」

「ああ、女の執念ですからね」

大平が、行き悩んで駒で盤の上を叩きながら云った。

「対手にとって不足はないが、と。……どうも詰っちゃったな。朝子さん、何とかなりますまいかね」

「相互扶助を忘れた結果だから、さあそうして当分もがもがしていらっしゃい」

この桃畑の家を見つけたのは大平であった。幸子はそれまで小日向の方にいた。朝子は一年半程前に夫を失い、河田町の生家に暮していた。