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いっぽんのつりざお

一本の釣りざお

小川 未明

「読売新聞」1921(大正10)年4月30日、5月2日~4日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,272 字 · 5 页

青空文庫

四

「それでは、まことにすまないが、私に、さおを買うだけの金を貸してください。いまのさおでは、思うように釣りができないから、もっといいさおが欲しいものです。」と答えた。

甲は、内心、いくらいいさおを買っても釣れるときは釣れるが、釣れないときには、やはり釣れない。すべて人間のことは運だ、俺のようなものだと思いながら、

「それはお安いことだ。」といって、わずかばかり金を貸してくれました。乙は、その金で手ごろのさおを求めました。

四

金が入ると、甲は、いままでのようにじっとしていることができませんでした。上等の網を買いました。また、いい着物をみんなが買いました。また、町へ出て見物に歩きました。

「金がなくなったら、また働くばかりだ。」と、甲はいいました。

そのうちに、真珠を売った金は、すっかりなくなってしまいました。甲は、ふたたび乙といっしょに海の上へ出て働くことになりました。けれど、昔のように、おちついて釣りをしたり、網を打ったりしていることができなかった。魚がとれると、かたっぱしから腹を割って見ていました。そして、真珠をのんでいないと、みんなその魚の屍を海の中にほうりこんでしまいました。