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ななかいのじゅうにん
七階の住人
宮本 百合子
「文芸春秋」1926(大正15)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,128 字 · 15 页
「じゃあ淋しいわね、御飯だけはこちら?」
「ああ、それがね――どうもここに働いている者みんなが望んでいる通りに行きませんでね、困るのですよ」
今まで、どこやら子供相手というふうに返事していたミセス・コムプスンの顔が俄に生気を帯びて来た。彼女は、すっかり伸子の方へ向きなおり、本気な小さい声で訴えた。
「御承知の通り、ここには三つ食堂がありますでしょう、生徒がたの分だけでもね。それが一部屋でざっと八九十人の御賄を仕度なさるんですから、いつだって十や二十、外出の方々の分が残ってしまうんですよ。――若い娘さんが、ドシドシ捨てていなさいますからね。どうせ捨てる物なら分けて欲しいと思って、ミス・ハウドンにも願ったんですけれど――」
「駄目なの?」
ミセス・コムプスンは、亜麻色の束髪と一緒に、灰掻きのように骨ばッた大きい手を、伸子の顔の前で振った。
「まるっきりお解りなさらないんですよ、あの方々には。私共の生活に、たったそれだけのこともどんな関係があるかね。饑え死しないだけの給料を払ってあるから、もういいとお思いなのかもしれませんよ」
そこで、彼女は皮肉なような、悲しいような微笑を皺だらけの顔一面に湛え、猶小さい声で伸子に囁いた。