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ななかいのじゅうにん

七階の住人

宮本 百合子

「文芸春秋」1926(大正15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,128 字 · 15 页

青空文庫

というがっかりした婆さんの感情がありありと分り、ひとりでに好意が湧き出して来た。伸子は、いそいで机の引出しをあけた。

「一寸! ミセス・コムプスン」

彼女は、日本の祝儀袋を見つけて、一弗(ドル)入れた。

「これ」

反射的に前掛で拭いてさし出したミセス・コムプスンの掌に、朱と銀で麻の葉模様を出した小袋をのせると、伸子は、相手の訝しそうな視線に笑って答えたぎり、ぴったり、部屋の扉をしめた。

――○――

寄宿舎じゅうが、攪(か)き廻した石鹸水のように元気よく、活気づき泡立っている。夕飯時だ。廊下では、バタバタ駈ける跫音と一緒に、

「一寸! 待ってったら! 直ぐだから」

と、高い鼻声で叫んでいる声がする。伸子の部屋に近い、洗面所の戸が、盛に開閉する。すぐ隣の扉を誰かがノックした。

「フロラ、御飯は?」

中では、着換え最中らしく、こもった声がきれぎれに答えた。

「あ、今。――私お客なのよ今夜――」

伸子は、部屋に鍵をかけて、昇降機(エレヴェーター)のところへ行った。もう四五人待っていた。どうかして昇降機がさっきから上って来ないらしい。伸子が名を知らない金髪の娘が、癇癪を起し、