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さんがつのだいよんにちよう

三月の第四日曜

宮本 百合子

「日本評論」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,826 字 · 42 页

青空文庫

今日まで楽しく共に励んで来ましたが、これからは、飛田は前線に、皆さんは銃後に、其々本分をつくすことになった次第です。御承知のとおり、まだ数日余裕が与えられてありますから、愈々出発の前日迄はこれまでどおり、及ばずながら御一緒に働きたいと思います」

飛田は、それだけ云うと軽く頭を下げる様子をして、やがて、

「作業をつづけて」

と、もう一度、自分も図板の間を歩きはじめた。

みんなうつ向いて、サイは何ということなし散っていない後れ毛をかきあげるような動作をした。烏口だの定規だのが、ばらばらにお義理のようにとりあげられた。すると、室の奥の図板のあたりで、くッ、くッと笑いをこらえているのか、泣声をこらえているのか咄嗟には分らないような女の喉声が洩れて、とよ子が軈て誰の目にも明らかな啜り泣きで作業服の肩をふるわしながら、顔をおさえて小走りに室から出て行った。

何とも云えないその場の空気になった。飛田は最後の図板まで同じ歩調でまわって、一言も云わず隣りの室へ走った。

よほどたって、とよ子が極りわるそうに、洗い直したような顔をうつむけて、そっと自分の図板へ戻って来た。