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さんがいばんれいとう
三界万霊塔
久生 十蘭
「富士」1949(昭和24)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,716 字 · 39 页
そうじゃないかね、深尾さん。空ッ腹に鰻香さ。罪な話だ」
山崎は憑きものがしたような眼付になって、
「青木君、その貝床、こっちへ取っちまう方法はないもんかねえ」
と、うわずった声でいうと、青木は笑いながら、
「山崎さんは徹底してら。正直でいいよ。取るほうは知らないが、捨てるほうの話なら知っている。貝床の谷へ梭魚が坐りこむと、どんな貝床でも捨てるよりしょうがない。この辺の梭魚は七尺もある大梭魚で、鑿棒みたいな長い嘴をしごいて矢のように飛びついてくる。それで腹でもやられたら、いっぺんに腸をえぐりだされてしまうんでね。ダイバーにはこれより恐いものはないのさ」
「君はなんの話をしているんだ」
「だから、梭魚の話さ」
翌朝、貝床につく時間になると、青木が五貫目もあるような鑿岩用の長い鑿棒を担いで甲板へ出てきた。潜水服を着て潜水帽を冠ると、舷梯を降りて後向きに半身を沈め、小峰から鑿棒を受取って透明な水の中へ沈んで行った。
三人が舷側へ並んで見ていると、海底へ着いた青木の歩くとおりに気泡が海面を動きまわっていたが、そのうちに気泡の列が船団のダイバーのいるほうへまっすぐに向いて行った。