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さんがいばんれいとう

三界万霊塔

久生 十蘭

「富士」1949(昭和24)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,716 字 · 39 页

青空文庫

鉄の鑿棒が梭魚の代用とはとんだ思いつきだったが、次の日は戸田がやり、その次の日には深尾がやった。就業しているダイバーの背骨をちょいと突いてやるだけで簡単に死んでしまう飽気なさで、情景がまた薄明りの中に万物がゆらゆらとゆらめく冥土の昼景色といったぐあいなので、自分のしていること自体が夢幻のようで、人を殺しているといった実感は全然なかった。

深尾が船団へお悔みに行くと、対馬が精がつきたらしく、耐え性がなくなって愚痴をこぼした。梭魚のせいばかりでもないだろうが、せっかくの貝床を放棄し、船団を連れて外水道のほうへ行ってしまったが、後で聞くと、領海へ入って監視船に銃撃され、母船とラガーは没収。親子もろともソロモンの政庁所在地フロリダ島のツラギ監獄へ収容されたということだった。

深尾と戸田は採るだけ採って一と財産つくると、真珠貝の値下りを汐に内地へ帰った。深尾と戸田の今日の資産は貝殻から叩きだしたものが基礎になっていることはいうまでもない。蛤は蜃気楼を吹きだすというが、このほうは夢ではなかった。戦前、戦中、戦後を通じてただの一度も躓かず、成功はその都度大きくなり、優越感は満足させられ、財豊かに身安らかに、悠々たる晩年になった。