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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
勝手にしろ!――裁判所の真ん中で、岸野がいきなり俺達を怒鳴りつけたんだ。
やってみろ! 足腰たたない位たたきのめしてやるから!――これが、いくら地主であろうと、小作人に云う言葉か――俺はこの四十三の大人になって、面と向ってこんな事を云われたのは初めてだ。
三日のうち五度会った。そして五度怒鳴り散らされた。――俺達は怒鳴られるために旭川まで出掛けて行ったんじゃない、調停して貰うためにだ。
ところが、「調停委員」は一体どんなことをしたと思う。――まア、まア岸野さん! それ位だ。こんなものが調停なら、誰にでも出来る。
後で、「農民組合」の弁護士が云っていた。
「調停裁判」なんて名前はええが、こんなものは、これから益※(二の字点、1-2-22)起るおそれのある小作争議をば体よく抑えて、大きくしないうちに揉み消しにして――結局地主ば安全にさせて置こうとするための法律だ。ところが、一寸見がいいために、何も知らない百姓はその人の好さから、あーあ有難いものが出来たと大喜びなんだ。そこが又うまくしてあるところだって。
んだんだ。今度でそれがよッく分った。――今年は全道みんな不作だ。