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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

小作は腰をかがめて、一言一言に頭を下げた。――それが阿部や健たちの居る処から一々見える。健も借金があった。こんな時に、一寸挨拶して置けば、都合がよかった。それに若し今年兵隊にとられるような事になれば、病身の父や女の手ばかりの後のことでは、キット世話にならなければならない。――健はフトその側を通りかかった、という風にして挨拶した。――挨拶をしてから、然し自分で真赤になった。健は「模範小作」だったので、※の旦那も心よく挨拶を返してくれた。

会場の中は、自然に、各農場別に一かたまり、一かたまり坐らさった。お互が車座になって、話し込んでいる。――小作達は仲々こう一緒になれる機会がなかった。無骨な、日焼けした手や首筋が、たまにしか着ない他所行きの着物と不釣合に、目立った。裂け目の入った、ゴワゴワした掌に、吸殻をころがしながら、嫁のこと、稲の出揃いのこと、青豌豆のこと、小豆のこと、天気のこと、暮しのこと、旦那のこと……何んでも話し合った。

――こういう会の時は巻煙草を吸うものだとしている小作が、持ちなれない手つきで、「バット」を吸っていた。

夜遊びに、H町へ自転車で出掛けたり、始終村の娘達と噂を立てている若いものは、その仲間だけ隅の方に陣取って、人を馬鹿にしたような大声を出して、しきりなしに笑っていた。