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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
「西郷大先生」「日露戦争」「血染の、ボロボロになった連隊旗」などの写真が、額になってかかっていた。演壇の左側には、払下げをうけた、古ぼけた旧式な鉄砲が三挺組合せて飾ってある。――乃木大将の話は百姓は何度きいても飽きなかった。
演壇には「S相互扶助会」発会式の順序と、その両側に少し離して、この会が主旨とする所の標語が貼り出されていた。
┌───────────┐
│ 海田山林の開発より │
│ 心田を開拓せよ! │
└───────────┘
┌───────────┐
│ 強靱なる独立心と │
│ 服従の美徳と │
│ 協同の精神へ! │
└───────────┘
会が終ってから、「一杯」出るという先触れがあったので、何時になく沢山の百姓が集っていた。「停車場のあるH町」からも来ていた。大概の小作は、市街地の旦那やH町の旦那から「一年」「二年」の借金があるので、一々挨拶して歩かなければならなかった。
小作が挨拶に行くと、米穀問屋の主人は大様にうなずいた。
「今年はどうだ?」
「ええ、まア、今のところは、ええ、お蔭様で……」