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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

水にもそれが映った。

「綺麗だね。」

今度は健がだまった。そのまま沈黙が少し続くと、

「怒ったの?……」と、節が云った。

やっぱり節だ。――短い言葉に節がすっかり出ている。健は急に節がいとおしく思われた。健は怒ってでもいるように、無骨に、女の肩をグイと引き寄せると、いきなり抱きすくめた。はずみで、足元の砂がズスズスッと、めり込んだ。

節は何時ものように、歯をしめたままの堅い唇を、それでも心持ちもってきた。女の唇からは煮魚の、かすかに生臭い匂いがしていた。

「何食ってきたんだ。口ふけよ。」

節は真面目な顔をくずさずに、子供のように袖で口をぬぐった……。

二人は草を倒して敷いて、その上に腰を下した。こっちの焚火が映って、向う岸の雑木林の明暗が赤黒く、ハッキリ見えていた。

「健ちゃ、阿部さん好き?」

「……阿部さんのどこさあまり行ぐなッて云いたいんだべ。」

「……………」

「んだども、ま、阿部さんや伴さんど話してみれ。始めは、それア俺だって……」

「良え人だわ、二人とも。んでも……この前の会のことで、ビラば一枚一枚配って歩いたべさ。あれでさ……」

――「相互扶助会」が本当は何のために建てられ、黒幕には誰と誰がいて、表面如何にもっともらしく装っていても、裏には裏のあること、それ等の事が、「小作人よ、欺されるな。