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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

「この糞ッたれ!」

健はそのまま口をつむんだ。然しすぐ又口を開いた。′

「な、仕事が苦しいべ、んだから何んかすれば直ぐ労働組合にひッかかって行くんだ。そうさせないためにするんだ――。」

「まアまア考えたもんだね。――んだら、わざわざ管理人さん達の肝入で出来た処女会はどうなるの?」

健は後向きになって、急に大きな声を出した。

「そうさ、裏が裏だから、表だけは立派にして置ぐのさ。やれ節婦だ、孝子だッておだてあげて、――抑えて置くのよ。そこア、うまいもんよ。」

「分らないわ。」

停車場のあるH町から通っている幌のガクガクした古自動車が、青白いヘッドライトを触角のように長く振りながら、一直線に村道から市街地に入ってきた。入口から、お客を呼ぶための警笛を続け様にならした。それが静かな市街地全体に響き渡った。――※の雑貨店から、ガラガラと戸を開けて周章てて誰か表へ飛び出した。

二人は市街地をよけて、畔道へ入って行った。

「だんだんこッたら事ばかし仕ていられなくなるど。」

別れる時健が云った。

節はだまって唇をかんだ。

健が家へ帰って床に入り、ウトウトしかけた頃、表のギシギシする戸が開いた。