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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

「恵か?――又だな……。何処さ今頃迄けづかったんだ?」

暑苦しいので寝られずにいた母親が、眼をさまして声をかけた。お恵はだまったまま上ってきた。寝床のそばで、暗がりに伊達巻を解くシュウシュウという音だけがした。

四

「嘘こけッ!」

同じ石狩川でも余程上流になっていたが、雑穀や米を運ぶために、稀れに発動機船がポンポンと音をさせて上ってきた。その音は日によっては、ずウと遠く迄聞えた。「ホ、発動機船だ。」何処にいる小作でも、腰をのばしながら音をきいた。

由三は村道を一散に走った。帯の結び目が横へまわって、前がはだけ、泥のはじけた汚い腹を出しながら、ムキになって走った。――発動機船の音をきいたのだ。他の子供も畔道を走ってくる、それが小さく見える。やがて村道で一緒になり、一緒に走り出した。

皆は堤の突端へ並んで腰を下ろし、足をブラブラさせた。河はくねって、音もたてず、「流れ」も見せずに流れていた。――深かった。

音はしていても、なかなか発動機船は姿を見せなかった。

そして、ひょッこり――まるっきりひょっこりと、青ペンキの姿をあらわした。青空に透きとおるような煙の輪を、ポンポン順よく吹き上げながら、心持ち身体をゆすって、進んでいるか、いないか分らない程の速さで上ってきた。