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ふしぎなるくうかんだんそう

不思議なる空間断層

海野 十三

「ぷろふいる」1935(昭和10)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,651 字 · 30 页

青空文庫

そして洋酒の壜をあけて、盃へなみなみと注いだ。それをきっかけのようにして、背後で男女のひそひそと早口で語る声が聞えてきた。

――そこで乃公は、大いに憤慨した気持になって、洋盃の酒をぐっと一息にあおる。がちゃんと盃を卓子の上に叩きつけるようにして立ち上るや、ふらふらと大鏡の方へ歩いてゆく……。

そこで乃公は、すこし薄気味が悪くなってきた、この前のひどく恐ろしかった印象が、まざまざと思いだされてきたからであった。あれから実にぞっとするようなことが起った。それは人殺しの場面を指して云うのではない。それよりもずっと前、この鏡の前に立って、自分の姿を映してみていると、自分の映った姿の方が、自分より先に動いているという。この眼にはっきりと映った異様なるあの有様……。

「あれだけは、実に恐ろしい」

乃公の身体は小きざみに震えてきた。おそるおそる一挙一動を鏡にうつして見るのだった。

――ポケットの中から、シガレット・ケースならぬピストルを取り出す……。

おお、それからだ!

――ピストルを握る手を、じりじりと胸の方へ上げてゆく。……じりじりと上げてゆく。

「はてな、……今日はよく合っているぞ」