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ふしょうのあに
不肖の兄
豊島 与志雄
「改造」1925(大正14)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,889 字 · 39 页
だが、そればかりでもなかった。
僕が「幼き愛」という変な詩を書いて見せた時のことを、お前は覚えているだろう。あの時お前は僕の様子を不思議がったね。だがこれで分ったろう。僕は一体、詩を書くといつもお前に見せていた。
それは女の感受性に敬意を表するからだ、と云えば立派だが、実は自分の詩についての自信がなかったからさ。それだもの、「幼き愛」などというあんな成心あって拵えた詩なんか、何の価値もありゃしない。それをお前はほめてくれた。いつも僕の詩を無遠慮にやっつけるお前が、いい詩だと云ってほめてくれた。僕はお前の顔色や眼付を窺いながら、ははん……と思った。それから、なおも一度読み返して、考えてる風をしてると、お前はこう云ったね。
「兄さん、それは誰との思い出なの。」
「馬鹿な。」
僕は思わず口走って、それから詩の原稿を引裂いてしまった。
「あら。」
その時のお前の、喫驚した顔ったらなかったよ。だが瞬間に、お前の黒い睫毛は、眼の色に現われた感情を隠してしまった。
西洋の誰かが、こんな意味のことを云っている。――昔の野蛮人は、占領した都市に、処女性のない潔白な女を残していったが、吾が文明は、潔白さのない処女を拵え出した。