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ふしょうのあに

不肖の兄

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,889 字 · 39 页

青空文庫

――幸福を夢みてる者は恐れは感じないそうだ。

「何でもないんだろう、犬か猫かなんだろう。」

そう云ったのが自分でも何だか変で、僕は火鉢の縁にかじりついた。

「おう寒い。」

「そう。褞袍をあげましょうか。」

「いえ……なに……。」

「じゃあ、何ですね、お前はまた、お酒でもほしいんでしょう。」

「いいえ、今日は……。僕が酒を飲むと、一家の平和を害する、そう悟っちゃったから……。」

「そんな、皮肉を云うものがありますかね。珍らしく今日はいらないと云うかと思うと、すぐお前はそれだからね。」

母の眼は、駄々っ子でも見るような眼付だった。そういう母を僕は好きなんだ。それを、よく知ってる筈のお前は、僕に向って意見めいたことを云ったね。

「兄さんも、お酒が好きなら好きでいいけれど、外で飲むのはお止しなさいよ。家でならいくら飲んだって……誰も何とも云やしないわ。だから早く……。」

「何が……。」

「早くどうにか……。」

「早く……何が早くなんだい。」

「どうにかして……。ねえ、お母さん。」

母がにっこり首肯いたのはよかった。僕はふふんといった気持で煙草を吹かした。そしてお前を追求するのは止めた。