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せかいきろくとわたし
世界記録と私
人見 絹枝
「文藝春秋」文藝春秋社、1929(昭和4)年12月号
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 1,818 字 · 4 页
しかし原稿の出来上って行くにつれてもうわたしはさっきまでのような元気も、若々しさもなくなってグラウンドのトラックを疾走しながら世界記録を破るなんてことの出来ない人間になるのみではなかろうか、外国の競技場で邦人の歓呼をうけることももう出来なくなるんだと競技場に活躍する自分の姿を自分の目に浮かばせるのであった。落ち着いた、物淋しい、人間らしい気持であった。
原稿が出来上って校正のゲラが手に入る頃には私はまた元気になった。元気にしてくれた、世間の人々が。
お前は若い、お前は責任を全うせよ、後輩を作れ、最後を飾れ、
と世の人は私に説いた。
私はまだ若かった。まだまだ私は自分の競技生活を全うしていない。オランダの大会では破れている。後輩は一人もいない。
そうだ私は最後を飾るのだ、若いのだもの。
来年(一九三〇年)の九月には第三回の万国女子オリンピックがある。瑞典の大会があってちょうど四年目、私には思い出の深い競技会だ、これに出場してそして最後を飾るのだ、私は一大決心のもとにふたたびサビついたスパイクシューズを手入れした。
春になった、四月に入ると私は去年よりも元気になった、毎年挙行の女子オリンピックで世界記録を一つ出した。