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せかいきろくとわたし
世界記録と私
人見 絹枝
「文藝春秋」文藝春秋社、1929(昭和4)年12月号
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 1,818 字 · 4 页
それに調子づいた運動神経はまた去年以上の緊張を見せてくれた。
五月に入ると『スパイクの跡』が出版された。
私は毎日自分の本がならべてある本屋のショーウインドの前を通った。
一冊へり二冊へり次第に棚の上から本が少なくなっていくことがどんなにうれしかったか。
「あんたでもそんなに本が売れるなんていうことにうれしみを感じますか、私はあなたなんか超然としていられると思っていました」とある奥さんがいわれたが、私はやはり超然となんか出来なかった。五月にも大きな競技会があった、ここでもまた一つ世界記録が出た。競技をやっておってよかったと初めてうれしかった。
私はまだ若かったのだ、と思った。
八月に入ると私は日本中から十四、五人の女の子を集めて合宿練習を二週間大和の美吉野で行った。後輩を作れという世間の人らの言葉にはげまされて、女の子十五人の合宿練習費を捻出すところがなくて生れて初めて金策の苦しさを味わった。金の力を知った。
『スパイクの跡』の印税をこれにあてた。今考えてみれば愉快な思い出だ。
十月になった、ドイツの選手がやって来た。忘れることの出来ないドイツの国旗とドイツの国歌を聞いてまた涙を出した。