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せそう

世相

織田 作之助

「人間」1946(昭和21)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页

青空文庫

(十銭芸者がまだ娘の頃、彼女に恋した男がいる。その情熱の余り女が芸者になれば自分も男衆として検番に勤め、女が娼妓になれば自分もその廓の中の牛太郎になり、女が料理屋の仲居になれば、自分も板場人になり、女が私娼になれば町角で客の袖を引く見張りをし、女が十銭芸者になればバタ屋になって女の稼ぎ場の周囲をうろつく――という風に、絶えず転々とする女の後を追い、形影相抱く如く相憐れむ如く、女と運命を同じゅうすることに生甲斐を感じている)この男を配すれば一代女の模倣にならぬかも知れないと、呟き乍ら宗右衛門町を戎橋の方へ折れた。橋の北詰の交番の前を通ると、巡査がじろりと見た。橋の下を赤い提灯をつけたボートが通った。橋を渡るとそこにも交番があり、再びじろりと見た。(犯罪。十銭芸者になった女は、やがて彼女を自分のものにしようとするルンペン達の争いに惹き込まれて、ある夜天王寺公園の草叢の中で、下腹部を斬り取られたままで死んでいる。警察では直ちに捜査、下手人は不明。ところが、間もなくあれは自分がやったのだと、自首して来た男がいる。事件発生後行方を韜ませていたバタ屋である。