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せそう

世相

織田 作之助

「人間」1946(昭和21)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页

青空文庫

汁を掛けるのだった。スプーンが下向き故皿との間に大きな隙間が出来る。その隙間の分だけ飯を節約してあるわけだと、狡いやり方に感心した。バラックを出ると、一人の男があのカレー屋ははじめ露天だったが、しこたま儲けたのか二日の間にバラックを建ててしまった、われわれがバラックの家を建てるのには半年も掛るが、さすがは闇屋は違ったものだと、ブツブツ話し掛けて来たので相手になっていると、煙草を一本無心された。上品な顔立ちで煙草を無心するような男には見えなかった。

しかし、掌の上へひろげた新聞紙にパンを二つ載せて、六円々々と小さな声でポソポソ呟いている中年の男も、以前は相当な暮しをしていた人であろう、立派な口髭を生やしていた。その男の隣にしゃがんでいる女は地面に風呂敷包みをひろげて資生堂の粉ハミガキの袋を売っていた。袋は三個しかなく、早朝から三個のハミガキ粉を持って来て商売になるのだろうかと、ひとごとでなく眺めた。自分もいつかはこの闇市に立たねばならぬかも知れぬのだ。親子三人掛かりで、道端にしゃがみながら、巻寿司を売っているのもいた。

闇市を見物してしまうと、新世界までトボトボ歩いて行ったが、昔の理髪店はやはり焼けていた。