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せそう

世相

織田 作之助

「人間」1946(昭和21)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页

青空文庫

ありがたいと起きて行き、はいろうとすると、繩の帯をした薄汚い男が、そこは俺の寝床だ、借りたけりゃ一晩五円払えと、土蜘蛛のようなカサカサに乾いた手を出した。が、一銭もない。諦めて元のコンクリートの上へ戻ったが、骨が千切れそうに寒くて、おまけにペコペコだ。思い切って靴を脱ぎ、片手にぶら下げて、地下道の旅行調整所の前にうずくまって夜明しをしている旅行者の群へ寄って行き、靴はいらんか百円々々と呶鳴ると、これも廉いのかすぐ売れた、十円札にくずして貰い、飾窓へ戻り二晩分十円先払いして、硝子の中で寝た。昔馴染んだ飛田の妓の夢を見た。

夜が明けると、まず十円のカレーライス。はだしでは歩けないと八ツ割草履を買うと、二十円取られた。残った六十円を持って阿倍野橋へ出掛けたが、やはり大阪一点張りに張っているうちに、最後の十円札も消えてしまった。二晩分の飾窓の家賃を先払いして置いたのがせめてもの慰めであった。隣の飾窓で蝨をつぶしている音を聴きながら、その夜を明かすと、もう暮の二十八日、闇市の雑閙は急に増えて師走めいた慌しさであった。被っていた帽子を脱いで、五円々々。やっと売れたが、この金使ってしまっては餓死か凍死だと、まず阪急の切符売場で宝塚行き九十銭の切符五枚買った。