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なかざとかいざんの『だいぼさつとうげ』
中里介山の『大菩薩峠』
三田村 鳶魚
「日本及日本人」1932(昭和7)年10月15日号、11月1日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,523 字 · 27 页
四十頁の御嶽山で試合をするところ、双方の剣士を呼び出すのに、一方の「甲源一刀流の師範、宇津木文之丞藤原光次」はいい。一方を「元甲源一刀流、机竜之助相馬宗芳」という。これは「平宗芳」というべきはずのところだと思う。たしかにこれは間違っている。同じところにある「音無しの構」というものは、撃剣家の方では、何流にもないという話を聞いている。そういうことは、あるいは小説だけに、勝手に拵えてもいいかとも思われるが、氏名を呼ぶ方は、こういう場合に、姓のほかに在名を遣うことは知らない。一方は立派に源平藤橘の藤原で呼んで、他方も平氏であるのに殊更に在名を呼ぶのは、わけが分らない。これは剣術の流名や何かを、いい加減に拵えるのとは違って、折角書いている小説を、わざわざ嘘らしくしてしまうようなものだ。
四二頁に「呼吸の具合は平常の通りで木刀の先が浮いて見えます」と書いてあるが、「浮いて見える」という言葉は、普通落着かぬ意味に解せられる。これも用例が違っているように思う。
五二頁になると、場面は江戸のことになって、本郷元町の山岡屋という呉服屋へ、青梅の裏店の七兵衛という者が訪ねて来る。