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なかざとかいざんの『だいぼさつとうげ』
中里介山の『大菩薩峠』
三田村 鳶魚
「日本及日本人」1932(昭和7)年10月15日号、11月1日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,523 字 · 27 页
そうして山岡屋の小僧に向って、「旦那様なり奥様なりにお眼にかゝりたう存じまして」と言っている。また奥様だが、これもいけない。「旦那なりおかみさんなり」と言わなければならぬところです。町家で「奥様」というのは、絶対にあるべからざることで、この近所にいくつも「奥様」という言葉が出てくるが、そんなことは江戸時代には決してない。
五三頁に「以前本町に刀屋を開いておゐでになつた彦三郎様のお嬢様」ということが書いてある。刀屋を開いている、なんていう言葉も、この時代に不相応なものだ。お嬢様もお娘御と改めたい。
五七頁になって、七兵衛に連れられて来たお松という小娘が、「そんな筈は無いのよ」と言っているが、これもおかしい。もう十一二になっている娘、今こそ零落している様子ですが、以前は相当の町人であったらしいのに、その娘にこういうことを言わしている。これはいずれにも、ごく幼年の者の言う言葉でなければならない。
ところへこの店に入って来たのが、「切り下げ髪に被布の年増、ちよつと見れば、大名か旗本の後家のやうで、よく見れば町家の出らしい婀娜なところがあつて、年は二十八九でありませうか」