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なかざとかいざんの『だいぼさつとうげ』

中里介山の『大菩薩峠』

三田村 鳶魚

「日本及日本人」1932(昭和7)年10月15日号、11月1日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,523 字 · 27 页

青空文庫

(五五頁)という女なのですが、これはどうも大変なものだ。何でも旗本の妾のお古で、花の師匠か何かをしている女らしいのですが、「大名か旗本の後家のやう」というのも、ありそうもない話だ。大名の後室様が、供も連れずに、のこのこ呉服屋なんぞへ買物に来るはずのものでなし、旗本にしたところが、同様の話です。しかも「よく見れば町家の出らしい婀娜な処がある」というんですが、そんなものが大名や旗本の家族と誤解されるかどうか、考えたってわかりそうなものだ。江戸時代においては、そんなばかなことは決してない。

この妙な女が五八頁のところで、七兵衛とお松に声をかけて、「もし/\、あのお爺さんにお娘さん」と言っている。これもおかしい。世慣れた女であっても、何か力みのある女らしくみえるのに、こんなことをいう。そうかと思うと、また二人に向って、「お前さん方は山岡屋の御親類さうな」と言っている。いつも買いつけにしている町人の家、その親類に「御」の字をつけるのは不釣合だ。しかるにまたこの女は、「ぞんざいといふのはわたしの言ふことよ」とも言っている。二十八九にもなっている女が、武家奉公をしたことがある者にしろ、ない者にしろ、こんな今の女学生みたいな言葉を遣うはずがない。