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なかざとかいざんの『だいぼさつとうげ』

中里介山の『大菩薩峠』

三田村 鳶魚

「日本及日本人」1932(昭和7)年10月15日号、11月1日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,523 字 · 27 页

青空文庫

七六頁に「名主は苗字帯刀御免の人だから、斬つてしまふといふのは事によると嘘ではあるまい」と書いてある。「苗字帯刀御免」というのは、士分の待遇を受けていることである。そういうものはたしかにあったに違いないが、苗字帯刀を許されたからといって、それ故に人を斬ってもいいというわけではないはずだ。帯刀を許すというのは、無礼討をしても構わない、という意味のものではない。無礼討でないにしろ、人を斬っていいということでは更にない。作者はそこのところがわかっていないようにみえる。

八二頁の、竜之助が侘住居をしているところで、「ほんとにもう日影者になつてしまひましたわねえ」と、今では竜之助の女房のようになっているお浜という女――最初に文之丞の内縁の妻だった――が言っている。奥多摩生れの女の言葉が、「日影者になつてしまひましたわねえ」なんぞは、なかなか洒落れている。時代論のほかに、なおそこに興味を感ずる。「ホントに忌になつてしまふわ」(八四頁)も同様に眺められる。そのほか、この女は盛んに現代語の甘ったるいところを用いていますが、面倒だから一々は申しません。

この竜之助が侘住居をしているのは、どういうところかというと、「芝新銭座の代官江川太郎左衛門の邸内の些やかな長屋」