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ここのつのかぎ

九つの鍵

野村 胡堂

「少年時代」1949(昭和24)年1月~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,349 字 · 42 页

青空文庫

――祖父三右衛門は、七十を越しておりましたが、なかなか元気で達者でした。妹の愛子に助けられて、真夜中の阿蘇山に逃げ登り、裏山を越して、何んとかして東京へ引揚げようとしたのですが、その時もう悪者の手が廻って、祖父と妹は、阿蘇山の噴火口の前で、数十人の悪者の包囲に陥ってしまいました」

「チェッ、ひどい事をするじゃないか」

馬吉少年はたまりかねて、吐き出すように口を容れます。

「それは忘れもしない、今から四年前、八月十五日の暁方でした。悪者の包囲に陥った祖父は、生命か、九つの鍵か、と言われた時、――喜んでおれは生命を投げ出そう、七十才を越した老いぼれの年は少しも惜しくはないが、孫娘の愛子はまだ十四だ、これをむざむざと死なせてはならぬ――が、九つの鍵はお前たちに渡されない、宝はいつの日か、たれかに取り出されて、おれの志を継いでくれるだろう、――見るがいい、九つの鍵は、謹んで阿蘇の神霊に献ずるぞ、それッ――祖父の手が空に挙がると、九つの鍵を連ねた銀の輪が、暁の最初の光を浴びて、キラキラと光りながら、阿蘇の噴火口の赤錆色をした熱鉄の中へ、落ち込んでしまったのだそうです」