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ここのつのかぎ

九つの鍵

野村 胡堂

「少年時代」1949(昭和24)年1月~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,349 字 · 42 页

青空文庫

去年某新聞のコンクールを通って、一ぺんにその天才を認められ、日本楽団の大きな発見とまで言われましたが、年を越してようやく先輩や恩師の後援で、最初の独奏会を開き、新人のデビューとしては、まさに空前の成功を納めての帰りだったのです。

兄の三郎は二十才、大学では数学をやっていますが、頭がいい上に体力が非凡で、ラグビーの選手として、学生スポーツ界に知らない者はありません。五尺七寸余りのみごとな体格と、明朗闊達な気風は、優生学上の見本にして、将来の日本人の理想型にしたいような青年です。

「お兄さんは、どうお思いになって? ほんとうに出来がよかったでしょうか、――私は新聞や音楽雑誌の批評が心配でたまらないんだけれど」

愛子はさすがに娘らしく、そんな事を気に病んでいるようです。

「そりゃ大丈夫さ、悪口を言う奴はピアノがほんとうにわからないんだよ、――ぼくは酒を呑まないけれど、酒に酔った心もちは、ちょうどあんなぐあいだろうな、ピアノを聴いているうちに、こうボーとなって」

「まア大変ね、メチールでなきゃいいけど」

「こいつめ」

ふたりはそんな事を言って、正月の夜空にわだかまりのない笑いを響かせました。