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ここのつのかぎ
九つの鍵
野村 胡堂
「少年時代」1949(昭和24)年1月~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,349 字 · 42 页
きょうは姉の丹精らしく、さすがにみの虫の浅ましい風態ではなく、つぎだらけの学生服に、大徳帽をボロきれのようにおもちゃにしております。
「ぼくもまだおちついて聴いていないんだ、けさ帰った時はちょうどおとぎばなしの『眠りの城』にはいったような心持ちだったよ、従弟の誠一君もようやく元気になったようだから、くわしくゆうべの話を聴いてみよう」
三郎はそう言って、書生に言いつけて、植野誠一を呼ばせました。
やがてはいって来たのは、まだ青い顔はしているが、それでもなかなかの元気者らしい植野誠一でした。十九というにしては背の低い、子供子供した感じの、よく肥った色白で、皆んなから照国というあだ名で呼ばれている青年です。
「どうだい、誠ちゃん、元気は?」
三郎はシンのハミ出した長イスを半分わけて、いたわるように掛けさせました。「もう大丈夫だ、――ひどい眼に逢ったよ、胸が悪くて頭痛がして困ったが」
誠一はそう言って、愛嬌者らしい眼を細めて、子供が苦い薬でも飲まされた時のような渋い顔をするのでした。
「その時のようすをくわしく話してくれないか、気分が大して悪くなかったら」
「いいとも――でも、つまらない事なんだ、あんな餌に引っかかったのが悪かったんだ」