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ここのつのかぎ
九つの鍵
野村 胡堂
「少年時代」1949(昭和24)年1月~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,349 字 · 42 页
ません。
「ぼくがこの眼で見たんだから、それはまちがいはない、愛子が蜘蛛の巣にかかった蝶々のように、上へきりきりと釣上げられるのを、ぼくはどうすることもできなかったんだ」
狩屋三郎青年は、眼の前で妹をさらわれたゆうべのことを思いだして、歯がみをしてくやしがるのです。
ビルの内外は警官隊で堅め、ゆうべからはいった者も出た者もありませんが、管理人という山裏金司だけは、階下の広間に火鉢などを入れさせて、警察から出張した警官とおもしろそうに話しております。
「とんだ災難でしたね、お邸のほうでは何んかあったそうで、――いやおかげで私もばかな眼に逢いましたよ、一と晩ろくに寝やしません」
三郎の顔を見ると、山裏金司はあいそよくこう言うのでした。四十前後の四角な顔をした調子のいい男で、ゆうべの騒ぎ以来狩屋三郎ともすっかり懇意になっております。
「もう一度ビルディングの中を見せていただきたいのですが」
狩屋三郎はていねいに申し入れました。
「さアさアどうぞ、ご自由に、このビルディングの中で事件が起れば、管理人の私にも何んかの責任があるわけですから疑念の残らないように、トコトンまで調べていただかにゃなりません、――もっとも私はゆうべ熱海へ行って遅く帰ったので、お妹さんのさらわれた時刻には、横浜あたりを通っていたはずですがね」