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くだん
九段
「別冊文藝春秋 第二〇号」1951(昭和26)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,870 字 · 20 页
看板は碁の旅館であるが、何であれ大手合や勝負師が好きな旅館で、朝日へ手をまわして将棋名人戦もここでやった。私は見に行かなかったからハッキリ記憶がないが、木村大山が二対二のあとの第五局ではなかったかと思う。もっとも読売の方は、それまでにも碁のほかに将棋の方でも時々ここを使ってはいた。読売の将棋は呉清源を一手に抱えている碁にくらべて劣勢であるからそれまで問題にならなかったが、将碁名人戦の定宿の一ツになると、碁の旅館の看板ではさしさわりがあるから、その時以来、辻々に立てた碁の旅館の看板をおろしてしまったのである。オカミサンは次第に商法の方も手を上げたのだ。
二敗から二対二まで持ちこんだ大山は、第五局目の対局にこの宿へついた時、
「ぼくは勝ちますよ」
と、事もなげに断言していたそうである。手合前の木村は慎重にかまえて、口数も少かったが、大山はハシャイで明るかったという。
オカミサンは女中一同を集めて厳命を下した。
「お二人のどちらが勝っても負けても、あなた方は知らんぷりしていなさい。この旅館の者全体が勝敗に無関心でなければいけません。かりそめにもどちらかにヒイキの態度など見せてはいけませんし、どなたが勝ってもオメデトウも云ってはいけません。