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ちちをさす

乳を刺す

邦枝 完二

黒門町伝七捕物帳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,474 字 · 35 页

青空文庫

「平太郎といえば、死んだお由利さんと、祝言するはずだった男だが。……それじゃ男の方でも、お春を想っているのか」

「それは、わたくしには判りませんが、ゆうべのことを思いますと……」

「ゆうべのことというと……?」

「………」

「つまらねえ遠慮をしてると、常吉ばかりか、おめえのためにもならねえんだよ。はっきり云うがいい」

「は、はい。……実は、夜半過ぎまで、常どんは、わたしの所に居ましたが、これからお由利様の、お部屋の行灯の油を差しに行くんだと云って、離れへまいりましたんで……」

「うむ」

「それから先は、わたしは何んにも知りませんでしたが、今朝の騒ぎになってから、ゆうべは飛んでもないことをした、と云うんでございます」

「………」

「常どんが、離れへ行きますと、障子の中に、人の居る様子なので、びっくりして引き返してしまったと申します――こんなことなら、顔を見て置きゃアよかった。平太郎さんだと思ったばっかりに、着物の柄も判らないと、常どんは口惜しがって居りました」

「そうか。だが、そんならどうしてさっき、常吉はそれを云わなかったんだろうな。それだけでも、身の証しの助けになるというもんだが……」