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ちちをさす

乳を刺す

邦枝 完二

黒門町伝七捕物帳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,474 字 · 35 页

青空文庫

「そして用の筋というのア?」

「今朝、暁け方に、袖ノ井が、自害して果てましたんで……」

「そうか。……やっぱり死んだか……」

「じゃア親分にゃ、袖ノ井の死ぬことが、きのうから判ってたんでござんすか」

岩吉の声に、あわてて出て来た竹が、頓狂な声を出したが、伝七はそれには答えなかった。

「岩さん、まア掛けてくんねえ。で、病人はどうした?」

「へえ。病人も袖ノ井の手で、殺しましたんでござんす。毎朝病人の、布の巻き替えを手伝います隣りの隠居が見つけまして、手前共へ、飛んでめえりやした。親分とあっしが、直ぐに出向きましたが咽喉を突いて、腑伏している袖ノ井の傍にありやしたこの手紙を、親分が披いて見ましたので、事情はすっかり判りやした。知らねえこととて、お先へ拝見いたしやしたが、早速黒門町の親分へ、お届けしろと申しますので、あっしが持って伺いました次第でございやす」

岩吉の差し出すものを、伝七が受け取って見れば、一通の書置き。――

この度立ちかえりて、父の病いが業病なりしことを知りおどろき、ましてやその姿を由利どのに見られし悲しさは、たとえるものもこれなく候。由利どのとの睦みもこれまでなるべく、またその口よりお城へ洩れ候節は、いかなる大事となるやも計られず、いまは自ら死を覚悟いたし申し候。