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よしんちょうしょ

予審調書

平林 初之輔

「新青年」1926(大正15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,371 字 · 23 页

青空文庫

ことによると、あの時夢中で自分が死体を台所までひきずって行ったのかもしれないと言われるのです。しかも、現場をしらべてみると、明かに玄関の三畳から六畳の居間をとおって台所へ死体をひきずっていった形跡があるのです。その上、まあどうでしょう。死体をひきずったあとがていねいに雑巾か何かでふいてあったのです。ああいう際には、無意識でこういう用心深いことをやるのですねえ。よくある例です。しかし、それが事実だとすると、御子息の立場は、よほど不利になって来ますねえ。」

判事はちょっと言葉をきった。彼は、自分の口から出る一語一語が、きき手の心臓へ鑿を打ちこむ程の苦痛を与えていることなどにはまるで気がついていないらしい。あるいは気がついていてわざと相手を苦しませて楽しんでいるようにもとれる。

「そういうわけで、何しろ、肝腎のところで御子息の申し立てが曖昧になっておるので、どうにも困るのです。わたしは、何べんも申し上げたように過失であることを疑いませんが、申し立てに曖昧な部分があるようでは、世間が承知しません。検事は、ちょうど戸をあける時に、寝台が倒れて、その下にちょうど被害者がたっていて、しかも倒れた寝台の框が被害者の急所へぶっつかるというようなことは、とてもこしらえごととしか考えられんというのです。