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よしんちょうしょ

予審調書

平林 初之輔

「新青年」1926(大正15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,371 字 · 23 页

青空文庫

いや、あり得るというよりも、むしろありがちなことと言った方がよいかもしれません。ドストエフスキーの『罪と罰』の主人公にしても、ゴリキーの『三人』の主人公にしても、殺人を犯したあとで、わざわざ現場へ見に来ているじゃありませんか?」

二

窓からさしこむ夕日は、室内の光景に、一種の神厳な趣を添えている。原田教授は、我が子の生殺与奪の権を握っている予審判事の口から出る一語一語に、はらはらしながら聴き入っていた。判事は相変らず化石のような調子で話しつづける。その落ちついた調子が、きき手の心をますますいらだたせるものである。

「ところが、この事件が翌日の新聞で発表されると、御承知の通り、御子息が、あの女を殺したのは自分だといって自首して来られたのです。そこで林の方は嫌疑はまったく晴れたわけです。何しろ、林に対する唯一の嫌疑は、前の日の夕方、兇行の現場へ来たことがあるということだけなのですからねえ。嫌疑の理由がまことに薄弱なので、実はこちらでももてあましていたとこへ、折も折、ちょうど御子息が自首されたというわけです。なんでも、御子息は、あの家が空いてから、毎晩就蓐前に、眠つきをよくするために空家の中へはいって体操をしておられたということで、その晩も、九時頃、玄関の戸をあけてはいろうとすると、どうしたものか、錠も