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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「……それ、どっちからの話? あっちから?」

「はっきりそうともいえないんだけれどね……」

「じゃ、お母様から? もうおっしゃったの?」

「だから、伸ちゃんはどう思うかって、きいているんじゃないか」

「――こっちから、なんて……」

伸子は、

「変だわ、変だわ」

不安が募って、そういいながら白くて柔らかい多計代の手をつかんだ。

「まるで変じゃないの? どうして? ね、なぜなの? 問題にもならないみたいなことなのに……」

「この間研究室へ行った時にね、あのひとも若いもんだから――」

ついそういいかけて多計代は周章した。大学にある越智の研究室へ行くことを、多計代はこれまで保からもかくしていたのだった。伸子からはもとより。――そういういきさつに拘泥せず、

「そしたら?」

手を握ったまま多計代を促した。

どう表現していいかわからない、けれども、この話全体の核心になる事情がそのときのことに潜んでいるらしかった。

「……ともかく私としちゃ、もう結婚をするしかないのかと思うようになったのさ」

多計代の眼に涙が浮んだ。涙の浮んでいるその母の眼に、まばたきもしない自分の視線をぴったりと合わせ、想像されるあらゆる場合を考えめぐらしているうちに、混沌としていた伸子の想像のうちにいくらか現実性のある一つの点が照らし出されて来た。