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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

でも、その若さは、年齢と境遇とのずれで、現実に新しい内容づけの不可能な若さの夕ばえである。何ぞというと、伸子をエゴイストと非難する多計代の感情の奥底が急に会得された。多計代が上気しておこった眼付で伸子に向ってエゴイストと罵るとき、それは伸子にだけいわれている言葉ではなかった。自由に、自分の希望と意志と責任とで行動しようとし、また、事実そうしてゆくすべての若い世代の同性にたいして、多計代はいうにいえない自身の不同意を、若い女のエゴイズムという言葉にまとめて、伸子にそれをうちかけた。

伸子は、四年ばかり前に赤坂の古びた佃の家の縁側で泣いていた自分を思い出した。伸子は、毎日毎日がただ瑣事の反覆で過ぎてゆく生活の無意味に苦しんで、佃といいあらそった。佃には伸子の身心をさいなんでいる生活の空虚感が全く通じなかった。顔を泣きはらしている伸子の肩を抱いて、佃はやさしくくりかえした。

「そんなに泣くことはないですよ、ね。もう十年たてば、そんな苦しみはなくなります。僕にはよくわかっている――」

慰めるように囁かれる佃のその言葉を、伸子はどんなに恐怖したろう。もう十年たてば――十年! 一年だってこのままたつのがこわいからこそ、こんなにせつながっているのに……。