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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

小川豊助は、

「ハルビンあたりでさえ夏の別荘気分はいいですなア、夜、ヴェランダで涼みながらサモワールをかこんでいると、ギターがきこえて来たりして……」

追懐につれて俄かに思いおこしたらしく、

「そういえば、いよいよ日本からの国賓もきまったようですね」

といった。

「へえ」

素子は、

「そうですか? いつ?――ちっとも知らなかった!」

刺戟をうけた表情になってききかえした。

「そろそろ旅券も下りるらしいようですよ」

ソヴェト・ロシアが革命十年の記念祭に、世界各国から文化代表を招待して、一ヵ月間国賓として見学させるという計画が、春ごろから噂にのぼっていたところであった。

「誰です?――国賓は……」

国賓というとき、素子は、皮肉なゆっくりした口調になった。

「大体、噂にのぼっていた人々らしいですよ」

「あ、佐内満、秋山宇一、瀬川誠夫、そんなところですか」

「それに尾田君も加わっているらしいです」

「尾田君が?――国賓?」

素子は、タバコをもっている手で自分の顎を下からしごきあげるようにしながら、あおむいて笑った。

「すごいことになったもんだ――誰がきめたんです?」

「それは、こっちに来ている文化連絡の代表と相談してきめたんでしょう」