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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
「――ひとつ献辞をかかなくちゃ、わるいかな」
「結構よ」
「外国の作家はよくやってるじゃないか」
「だって……」
伸子は、首をすくめた。
「わたしも、じゃ書くの? 献ぐって?」
二人は笑った。素子は、赤いパイプを口の中でころがすようにして目を細め、ポプラの枝の間に白く光っているとなりの洗濯ものを見ていたが、ふと椅子ごと伸子の方へ向きかわるようにし、
「ぶこちゃん!」
改まってよんだ。
「なあに」
「――実はこの間うちから考えていたんだが、ここでひとつ、思いきってロシアへ行って来ようと思うんだがどう思う?」
「――……」
とっさに伸子はへんじが出なかった。ロシアへ行こうと思う――。素子がしきりに拘泥していたロシアへの国賓のこと。素子はロシア語専門であること。今のところ行って帰って来た人は少いし、行こうとしている人もごく少い。民間の婦人としては一人もいなかった。素子が行きたいと思う動機はひととおりわかりはするのであったが……。
「――急なのねえ」
そのことがら全体がよく会得出来ない、ぼんやりした表情で伸子はつぶやいた。
「それゃあなたは専門だから、行くのがいいのはわかるけれど……」