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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

前年の初秋、コンラードという東洋語学者が美しい細君同伴で日本へ来たことがあった。その歓迎会に伸子も素子と一緒に出席した。源氏物語を、ロシア語に抄訳しているというその教授の話の様子では、交換教授の可能性もあるような工合であったが、素子はそのときは格別の興味も示さなかった。

――でも、何故、素子はこの話にかぎって結論からいい出したのだろう。いつもは、伸子が煩しいと感じるぐらい、思いついた計画の第一歩から話す素子だのに。――急にわいて来る様々な疑問を、とりあえず一番簡単な問いにまとめたように、伸子はきいた。

「――お金、あるの?」

素子は、そうきく伸子の腑におちかねながら緊張している顔を見やり、

「なんとかなるだろう」

その点も、十分考えてある、という風に答えた。

「帰ってみた上でなくちゃたしかなことはわからないけれど、だいたいなんとかなるだろう――私の分を、この際いちどきに貰っちゃうのさ」

関西にいる父親から、素子の分として予定されている財産を、まとめて貰って、それでロシアへ行って来ようというのであった。伸子は、財産のことについてそういう計画的な方法をとっているのが素子親子であることに、珍しい感じを動かされながら、当惑したように、