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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「わたしは駄目だわ、とても動坂なんかから、お金出してもらえない」

といった。

七八年前、伸子は父につれられてニューヨークへゆき、そこで一年あまり暮した。そして、佃と結婚して、帰って来た。その間の費用は、佐々の親から出してもらった。そうして費用を出してもらったということで、伸子はあとまでどんなにせつない思いをしたことだったろう。佃も、うけないでいい侮辱をこうむった。自分がしたいとおりに生活するのなら経済上のことも自分でやるがいい。そういって、多計代は、佃と伸子とを動坂の家から出した。それ以来、伸子は現在のようにして暮して来た。

「話せば、出してくれるかもしれないけれど、わたしはいやだわ」

「それゃ、そうだね」

素子は肯定した。が、じゃあ、ぶこちゃんの方はどうしよう、といわない。伸子は、ロシアへ行くというようなことについて、ちっとも考えを組立てていなかった。だから、いま急に素子が行くといっても、実感はそこになくて、どうせ行くならフランスも見たい、と漠然とした計画を感じるだけであった。けれども、二人のこの数年来の生活で、素子が、この話を、自分が行く計画としてだけ話しだしたことは、伸子を別の角度から複雑な心もちにするのであった。